君は独りじゃない。
「藤堂っ!」
月下のメンテナンスを終えて休憩を取っていた藤堂は、不意に聞こえた声に顔を上げた。
「ゼロか。何か用か?」
「用とかどうでもいい!助けろっ!」
ゼロと言ったものの、目の前にいるのは仮面の男ではなく、学生服を身に纏った少年。
「は?一体何なんだ?」
藤堂が訝しげにゼロの後方ちらりと見ると、カレンが険しい表情でこちらに向かって来ていた。
「ルルーシュッ!体育の補習!!サボってるんじゃないわよ!絶対に引きずってでも連れていくんだからっ!」
何か叫んでいる。
極当たり前のような雰囲気ではあるが、これはつい先日までは考えられなかった光景だ。
そう。
それが変わったのはあの日がキッカケだった。
「何?ゼロが出てこない?」
「え……えぇ。先程からずっと呼び掛けてるんですけど…」
自分を救出をしてくれたゼロに一言礼を言おうと黒の騎士団の幹部が集まっていた、ゼロの無頼の前に行くとゼロが戦闘から戻って来てからまだ出て来ていないと言ってカレンが必死にゼロに通信を使って呼び掛けていた。
『はは……はははははっ!ふははははは……っ!』
玉城が苛立たし気にもう放っておこうぜ!と騒ぎ始めた時、ゼロが外部スピーカーのスイッチを間違えて押したのだろう。
壊れた人形のような笑い声がスピーカーを通して格納庫に響いた。
「ゼロ……なのか……?」
藤堂が小さく呟く。
「ゼロッ?!どうしたんですか?応答してください!!」
カレンが叫びながらインカムで呼び掛けるものの、ゼロは応答することなく笑いつづけた。
このままではいけない。
直感的に感じた藤堂は、無頼の横につけてあったタラップを駆け登って、コックピットブロックの非常用ボタンを押す。
すると、コックピットが開いて中の座席が現れた。
ゼロは仮面をしていない。
だが、コックピットが開いたのにも構わずゼロは俯いたまま小刻みに肩を震わせて笑っていた。
「おい!ゼロッ!しっかりしろ!」
藤堂はゼロの肩を掴む。
「……もう…誰も信用したりはしない……絶対に……っ!」
悲痛なゼロの声は静かな室内によく響いた。
何かが壊れていくような気がする。
「何を言っている君はっ!!」
「・・・だってそうだろう?最後は俺を裏切tって行く・・・」
「そんな事誰が決めた!?」
藤堂が声を荒げて言った。
「・・・。」
「君が何を恐れているのかは知らない。ただ・・・俺達は君を信じている。・・・俺達が君の“仲間”になることは出来ないか?」
「戯れを・・・」
優しく諭すように言った藤堂にゼロは冷たく言い放つ。
「戯れなんかじゃ!!俺達は君を信用しているからこそ付いてきてるんじゃないか!」
「そうだ!そうじゃないと黒の騎士団なんて出来てねぇよ!」
扇を始めとする幹部らも無頼の足元から声をあげた。
「はらな。君は君が思っていないだけで知らぬ間に信用もされている。・・・だからっ・・・?!」
藤堂が言っている途中に何かが胸に飛び込んできて言葉を詰まらせる。
そこには涙を溜めている一人の少年がいた。
藤堂は「ルルーシュ君・・・。」と驚いた顔をしたが、すぐに納得のいった顔になってルルーシュをまるで息子のように抱きしめる。
「今まで良く頑張ってきたな。今のうちに泣いておけ。明日からまた『ゼロ』になればいい。」
「とうど・・・」
「それと。君はもっと俺達を頼ってくれ。一人で辛いことを抱え込む必要はない。」
「・・・・・・っ!」
ルルーシュの泣き声が暫くの間続いた。
「体育の補習くらいどうってことないって!」
「どうってことなくない!!」
「いいだろ?単位足りてるんだし。」
「よくないっ!」
カレンとルルーシュが藤堂を間に挟んでの口論が展開している。
「藤堂さんも黙ってないで何とか言ってください!!」
カレンが鬼のような形相で詰め寄ってきた。
「・・・・ルルーシュ君。行ってきなさい。」
我関せずを貫こうと思っていた藤堂はあっさりとルルーシュを差し出そうとする。
「藤堂・・・。俺は体育が苦手なんだ。」
「じゃあ休まなければいいことでしょ?!」
「でもな。一つ得意なことがあるんだ。それは・・・・」
言葉に陰りを見せていたルルーシュの声がいきなり明るくなり、
「頭えお使って逃げること!!」
と言って何かを地面に叩きつけた。
瞬間。
周りに赤い煙が立ち込める。
「あ。コラ!にげるなぁ!!」
カレンが追いかけていく姿を見ながら、藤堂は微笑んだ。
ーーーーありがとう。
どこかで泣いていた少年は仮面を被ってまた前に進もうとしている。
いや。もう前に進んだのかもしれない。
なぜなら。
彼はもう独りではないのだから。
以上、永倉 葵様からいただきました【君は独りじゃない。】でしたww
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