【お花畑で捕まえた】
皇歴2003年、春、神聖ブリタニア帝国宮殿内には、大きな大きな庭園が存在していた。
その庭園には季節毎に色々な種類の花々が咲き乱れ、まるでブリタニアの栄華を象徴するかのように、
華やかな色を振りまいている。そんな中を、走り抜ける少年…否、とことこと本人は
走っているつもりなのだろう、覚足ない足取りで歩く幼児が1人。
「ははうえ、ななりぃ、よろこんでくださるかな?」
どうやら最愛の家族のために摘んだらしい花を両手一杯に抱え、
幼児―――第11皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは精一杯走っていた。
御歳3歳とは思えぬ言葉の流暢さだが、そこはやはり3歳児、思考はまだまだ幼く、
またどこまでも1つのことで頭が一杯になってしまうのは、致し方のないことであった。
あれも綺麗、これも綺麗、と花を集めながらどんどん庭園の奥へと入っていく。
「ここ…どこ?」
母親と妹に花を見せてやるのだ…その一心で花を集めてみたものの、
結果として当然ながら、気付けばそこは見知らぬ場所だった。辺りを見回してみても、
どこまでも似たような花ばかりが咲く景色で、ともすれば自分がどちらから
来たのかさえ分からなくなってしまいそうなほどである。その事実は
まだ大人の手を必要とする3歳児のルルーシュにとって、とてつもない恐怖だった。
「ははうえぇ!ななりぃ!…ぐすっ!……ここどこぉ?」
恐怖を感じた途端、今まで美しく見えていたはずの花々は、
まるでルルーシュを取って食べる恐ろしい魔物のように見えてくる。
小さなルルーシュの更に小さな姿を持った花たちは、集団であるという
ただそれだけで、じわりじわりと彼を追い詰める獣のようだった。
近くにある茂みから、今にも何か恐ろしいモノが飛び出てくるのではないかと
そんな考えばかりがルルーシュの頭の中に生まれてくる。
「ひっく…こわいよぉ……ははうぇ!ななりぃ!」
みるみる内に、美しい紫水晶の双眸に透明の涙が溜まっていく。
彼は最後の矜持で、その涙を桃色の頬に流すことだけは耐えていた。
しかし、それも時間の限界かと思われたその時、
ガサリと茂みが僅かに音を立てた。ビクリッとルルーシュの体が動く。
ガサガサガサッ
音は徐々にルルーシュへと近づいてきているようだった。
本能的に”逃げなければ”と頭の中で声が響くが、
彼の体はあまりの恐怖に固まり、足は石のように動きはしなかった。
ただただ、音が近づいてくるのをピクリとも動けず、聞いていることしか出来ない。
ついに、彼の大きな紫の瞳から、一筋涙がこぼれた瞬間、
「おや?…君は、確か第11皇子の……」
「うわぁああああああんん!!!」
耳をつんざくような泣き声というか叫び声が辺りに響き渡る。
一体その小さな体の何処からこんな大きな声が出るというのか。
茂みから現れた影――金髪の少年も思わず顔を歪めて、両耳を塞いだ。
大きな紫色の瞳から滝のように涙を流しながら、声を上げ続けるルルーシュに、
金髪の少年は困ったような微笑みを浮かべ、そして唐突に彼を抱き上げた。
「ふぇ!?」
「ほら、泣き止んでくれないかい?おチビさん?」
急に高くなった視線に、驚いてルルーシュの涙が止まる。
くりくりと子供らしく大きな瞳をぱちぱちと瞬き、小さな手足をバタつかせるが、
少年の腕は細くとも、ビクリとも動かず、しっかりルルーシュを支えていた。
「ぼ、ぼく!…”おちびさん”じゃない!」
うぅとまるで威嚇する獣のように、ムッと口元を引き結び、
その不満を表すかのように、またもや薄っすらと瞳に涙が浮かぶ。
金髪の少年は一瞬キョトンと目を開いてから、クスクスと笑って言った。
「はは、これは失礼。僕は第2皇子シュナイゼル・エル・ブリタニア。君の名前は?」
「ぼくは…第じゅういち皇子ルルーシュ・ビ・ブリタニア…です」
少しだけ舌足らずな発音に、少年――シュナイゼルは頬を緩めた。
もちろん、彼はルルーシュが名乗る前からこの小さな子供の素性など分かっていたのだが、
モジモジと頬を赤くして、答える様は何とも愛らしく、また幼いながら、
きっちりと挨拶を出来る様は、マリアンヌの躾けの良さと、彼の聡明さを現していた。
「そうか。ところで…ルルーシュ、”ヴィ”って言ってご覧?」
「…”ビ”?」
コトンと小首を傾げて言う様子は、可愛らしいのだが、やはり舌が上手く回らないようだ。
そうと分かると、からかってみたくなるのが、シュナイゼルという少年である。
そして、彼はその冷酷無比と言われる頭脳とは裏腹に、可愛いものが大好きだった。
「”ヴィ”だよ」
「”ビー”?」
「”ヴィ”」
「”びぃ”?」
「違う違う”ヴィ”だよ」
段々訳が分からなくなってきたのか、むぅ?と考え込み、首どころか
体全体を傾がせて、ついには唸り出してしまったルルーシュに、
シュナイゼルはまたも耐えられないと言わんばかりに、クスクスと笑い声を上げた。
「まだまだだね。ルルーシュ。」
「~~~~~っ!!!兄様はいじわるです!!」
子供らしく真ん丸とした大きな紫色の瞳に再び涙が盛り上がるのを見て、
シュナイゼルは笑いを止めると、彼の機嫌を取ろうと優しく頭を撫でた。
柔らかな髪を梳く感触に、シュナイゼルの狙い通り驚いたのか、
ルルーシュの表情が泣き出す寸前のものから、きょとんとした驚きを表すものに変わる。
その様はまるで無邪気な小動物だ。シュナイゼルの中にムクムクと邪な思いが湧き上がる。
「ほら、私が悪かったよ。だから、泣き止んでくれないかな?」
「………もう、いじわる、しない?」
「しないよ。シュナイゼル・エル・ブリタニアの名に誓ってね」
髪を撫でる手は止めないまま、まだ疑わしそうに下から見上げてくる
ルルーシュににっこりと笑ってそう言った。その言葉を信じるべきか否か、
悩んでいる様子のルルーシュにシュナイゼルは頬にそっと口付けた。
「に、兄様!何を!?」
「誓いのキスだよ?ほら、ルルーシュも」
途端に真っ赤になって頬を押さえたルルーシュに
シュナイゼルは悪びれることなく、今度は自らの頬を差し出す。
差し出された頬にルルーシュは瞬間躊躇ったが、意を決したように
グッと一度目を閉じると、えいやっとばかりに力を入れて口を近づけた。
チュッ
そんな効果音がつきそうなほど、ルルーシュの唇としっかり合わされたのは
頬ではなく、なんとシュナイゼルの唇で、これには流石の彼も驚きに目を丸くした。
「る、ルルーシュ?」
「ちかいのキスは、くちびるにするものなのでしょう?」
”それぐらい僕だって知ってます!”と自信たっぷりに胸を張って言うルルーシュには
悪いのだが、”それは結婚の誓いだよ”と教えてやるべきか否か……
兄弟・姉妹たちの中でも優秀だと言われるその頭脳を使って彼が導き出した結論は、
「ははは、ルルーシュは物知りだね」
「はい!」
結論は、”教えない”だった。更に、彼はその持ち前の頭を使って、
この”可愛いもの”を自分だけのものにするべく、高速で動き出す。
そんなこととは露知らず、ルルーシュは兄に褒めてもらったことが
嬉しいようで、ニコニコと無邪気な笑みを浮かべていた。
「でも、これは私以外との誓いでは、使ってはいけないよ?」
「どうしてですか?」
きょとんと小首を傾げる様は、本当に可愛らしく、
シュナイゼルはこの出会ったばかりの異母弟に愛しさを覚えた。
その”愛しさ”は実の兄弟に向けるには少々間違ったものではあったが。
「ん?ははは、君が危険だからね」
「???」
ますますわけが分からないと首を傾げるルルーシュに、
シュナイゼルはただ笑って返すばかりだった。後にこの勘違いが元で、
日本国首相の息子とルルーシュが熱いキスを交わしてしまうことになろうとは…
このときには、シュナイゼルでさえも予想し得ないことであった。
FIN
あとがき
リクエスト企画小説第2弾「ほのぼのシュナルル」をようやくUPです。
が…すみません。何か第1弾にも増してグダグダな感じですorz
というか、前半と後半で説明文の量が全然違うのはもう明菜仕様ってことでorz
他にもツッコミ所は多々お有りでしょうが(ルルがアホ過ぎるとか、文が短すぎるとか)
ツッコミは不可でお願いします。ノリです。ノリが大事なんです!(黙レ)
では、ここまで読んで下さった方に敬意を表して、以下更にグダグダなおまけです。
ブリタニアと日本の戦争が始まる前にルルは本国に連れ戻されている設定で(微エロ)↓
「いやぁ。あのときのルルーシュは可愛かったね」
「…悪かったですね、今は可愛くなくて。というか、いたいけな幼児に何吹き込んでるんですか」
「ん?私にこうされるのは嫌かい?」
「ちょっ!?どこ触ってるんですか!?」
「どこって?それは…」
「いいです!口にしないで下さい!」
「それは残念だね。じゃぁ続きといこうか?」
「なっ!?ちょっ!?…っ!」
「私との約束を破って、他の人間とキスした罰だよ」
「そ、それはっ!もう、さんざっ…んっ!」
「はははははは」
「わ、笑ってっ!ご、誤魔化すなぁああああああ!!! ひゃぁ!」
雰囲気。雰囲気で察してやって下さい(マテ)
この後2人がどうなったのかは…皆様の妄想力にお任せいたしますv